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東京高等裁判所 昭和53年(行コ)21号 判決

控訴人(被告) 平塚勝一

被控訴人(原告) 吉田常雄

補助参加人 松本充八 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の訴を却下する(本案前の申立)。被控訴人の請求を棄却する(本案に対する申立)。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の関係は左記に付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(主張関係)

一  控訴人

被控訴人の控訴人を相手方(被告)とする本件損害賠償請求の訴は地方自治法第二四二条の二第二項所定の不変期間たる提訴期間を経過した後に提起されたもので不適法である。

すなわち、被控訴人は昭和四九年一二月一七日所沢市長を被告として寄付金の管理の職務懈怠の違法確認請求の訴(前同条第一項第三号)を提起したが同五〇年五月一四日に右請求をこれと訴訟物を異にする本件損害賠償請求(同条同項第四号)に変更したものであるところ、本件所沢市監査委員の監査の結果が被控訴人に通知されたのは昭和四九年一一月一九日であるから、右訴の変更が同条第二項第一号の期間経過後になされたこと明らかである。仮に右昭和四九年一一月一九日になされた通知が、監査の結果その結論が得られなかつたという趣旨のもので、その内容からみて監査が行なわれなかつた場合(同条第二項第三号)に当るとしても、被控訴人が監査請求をしたのは同年九月一八日であるから、右訴の変更が同条第二項第三号所定の出訴期間を経過した後になされたことこれまた明らかである。

そして、提訴についての不変期間の定めは強行法規であり、いわゆる責問権の放棄の対象となる性質のものではないから、控訴人が、右訴の変更後、本件損害賠償請求に対し応訴したとしても、右期間徒過の瑕疵が治癒されるものではない。

また、行政処分の取消訴訟において被告とすべき者を誤つたときにその変更を認める行訴法一五条の規定は、民衆訴訟にあつては行政処分の取消又は裁決の取消しにかかる場合にかぎり準用になるのであつて(同法四三条一項)、本件のごとく不作為の違法確認ないし損害賠償を求める民衆訴訟においては被告の変更は許されないから、昭和五〇年六月一八日付で原審が被告を「所沢市長」から「控訴人個人」に変更する旨の許可決定をしたからといつて、このことから本件損害賠償請求の訴が寄付金の管理違法確認の訴を提起した時点に提起されたものとみなされるわけではない。

以上いずれの観点からみても、本訴請求はその法定の提訴期間経過後になされたもので不適法として却下を免れない。

二  被控訴人

本訴が出訴期間経過後に提起され不適法であるとの控訴人の右主張は争う。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一  当裁判所も被控訴人の本訴請求は適法であり、かつ、理由があると判断するが、その理由は、以下に付加、訂正するほかは原判決理由と同一であるからこれを引用する(引用の原判決理由中の証人高野俊雄の証言は原審における同証人の証言である)。当審における証拠調の結果も右判断を左右しない。

二(一)  控訴人は、被控訴人の控訴人に対する本件損害賠償請求の訴は、地方自治法第二四二条の二第二項所定の不変期間たる提訴期間経過後に訴の変更により提起されたものであるから不適法である旨主張するので判断するに、なるほど本件記録によれば、被控訴人は自ら、昭和四九年一二月一七日、被告を「所沢市長平塚勝一」とし、請求の趣旨として「被告所沢市長平塚勝一が所沢市南部浄水場落成式に際し、所沢市に対しなされた本件祝い金である寄付金の管理が違法であることを確認する。」との判決を求める旨の記載のある訴状を原裁判所に提出し、次いで同五〇年五月一四日、被告所沢市長平塚勝一が本件祝い金から「堤新亭」、「三●」での飲食費及び市長交際費を違法に支出したから、市に代位してその損害賠償を請求するとして、請求の趣旨を「被告所沢市長平塚は所沢市に対し、金四万三一六五円及びこれに対する昭和四四年一一月一二日から、金二万一〇〇〇円及びこれに対する同年一二月八日からそれぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。」と訂正する旨の「請求の趣旨訂正申立書」と題する書面を原裁判所に提出し、その後本件被控訴代理人が訴訟代理人に選任され、右代理人は同五〇年六月八日被告を「所沢市長平塚勝一」から「平塚勝一」に変更する旨の許可の申立をなし、原裁判所は同月一八日これを許可する旨の決定をなし(同年六月一二日原裁判所より控訴人に対し右訴状副本、請求の趣旨訂正申立書副本、被告変更決定正本が送達された)、更に同代理人は同年七月三日請求の趣旨を、原判決事実摘示の被控訴人の申立のとおり変更(拡張)する旨の準備書面を提出したことが明らかである。右事実によれば、当初の訴状提出時は、被控訴人が所沢市監査委員より監査結果の通知を受けた日である昭和四九年一一月一九日から地方自治法第二四二条の二第二項第一号所定の三〇日の出訴期間以内であるが、その後の前記請求の趣旨訂正申立書、準備書面が提出されたのはいずれも右期間経過後ということになる。しかしながら、前記訴状の内容を見るに、請求の趣旨欄には前記のように掲げられているとはいえ、請求の原因欄の記載によれば、被控訴人は、所沢市監査委員に対し、本件祝い金の管理について、市長平塚勝一が職務を懈怠し、市に損失を与えていることにつき、速かにこれが補填並びに是正をさせるよう必要な措置を講ずることを請求したところ、結論が出ないとの監査結果の通知があり、これに不服であるから本訴を提起したというのであつて、右訴の本旨が本件祝い金の管理に関する控訴人の違法行為について損害賠償の責任を追及する趣旨を含むものであることが明らかに看取されるのであり、これが前記請求の趣旨訂正申立書、準備書面によつて具体化、明確化されたものと解することができる。従つて、訴状記載の訴と請求の趣旨訂正申立書を経て提出された準備書面記載の訴とは、その間に形の上で被告の変更はあるが、控訴人の本件祝い金に関する違法行為の責任を追及する限りにおいて、前後同一性を有するものと認められるから、右準備書面記載の本件訴は出訴期間の遵守に欠けるところはないものというべく、これに反する控訴人の前記主張は採用できない。なお、控訴人は原審が被告の変更を許可した措置を非難するが、その主張は採用できない。

(二)  原判決一一枚目表一〇行目の「合計三三万三〇八六円」を「合計三二万三〇六八円」と訂正し、同一三枚裏九行目「一二月八日、」の次に「前記南部浄水場工事とは全く関係のない」を加入し、同一九枚目裏九行目の「及び高野」を削除し、同二〇枚目表七行目から同裏七行目迄の全文を、次のとおり訂正する。

「しかしながら、本件落成式の如き祝賀行事に招待客が持参する祝い金は、通常、特別な手続なしに受付に祝儀袋に入れて差し出して行く金であつて、それ以上持参者の意思は格別表明されるものではないから、祝い金の提供は、右の外形からして、行事に招待されたことを契機に、その使途を行事の主催者に一任する趣旨でなす贈与であると認めるを相当とする。そして本件各祝い金が右と異るものであつたことを認めるに足りる証拠はない。そうだとすると、水道企業が本件各祝い金を受領する以上は寄付として取り扱うほかないのであつて控訴人主張のように取り扱つた担当者の裁量の処理に委ねられるというようなものではない。そして前認定のように本件祝い金はそれとして企業出納員たる高野俊雄の保管下に帰し、これについて当時水道企業管理者を兼ねていた市長の控訴人が持参者への返還の指示をするなど受領しない旨を表示するに足る特段の措置が講ぜられたことを認めるべき証拠はないから、水道企業において右祝い金を寄付として受領(採納)する旨の意思を表示したものと認めるを相当とする。そうである以上、右受領の時点において、祝い金は所沢市の所有に属する公金となつたものと解するのが相当である。持参者より寄付採納願が提出されたか否か、正規に予算に計上されたか否か、所沢市指定の金触機関に預金されたか否かなどは、右公金の性質の有無とは関係がない。」

原判決二〇枚目裏八行目の「雑収益」を「歳入」と訂正し、同二一枚目表二行目から六行目迄の全文を削除し、同九行目「確かに」の次に「所沢市水道事業職務権限規程第八条によれば」を加入し、同裏三行目から四行目の「適切に会計」を「正規に予算」と訂正し、同二二枚目裏四行目の「遅延損害金」以下同七行目末尾迄を「控訴人は右市長交際費として違法支出した金額を市に対し賠償すべきであるとすれば、その完済迄民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務あること当然で、遅延損害金を普通銀行預金の利子率にとどめなければならないということはできない。」と訂正し、二三枚目二行目の「事情も存しないので」の次に「(控訴人が市長交際費名義で支出した合計金二五万六〇〇〇円を昭和四六年二月九日所沢市に対して返還したことは当事者間に争いがないから、右事実によれば、右交際費は仮に正規の手続を経由したとしてもたやすく支出することができなかつたことが推認できる。)、」を加入する。

三  よつて、本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中永司 宮崎啓一 岩井康倶)

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